衣料の化学

繊維

■繊維の分類
・繊維には,天然繊維と化学繊維がある。

■天然繊維
・主にセルロースという物質からなる植物繊維と,主ににタンパク質からなる動物繊維に分けられる。

■化学繊維
・化学繊維は,セルロースなどの天然繊維の成分を化学的に処理してつくられる再生繊維や半合成繊維,石油などから合成される合成繊維,さらに,無機物からなる無機繊維に分類される。

■混紡と交織
□混紡
・2種類以上の異なる繊維を混ぜて糸にすること。
□交織
・縦糸と横糸に異なる材料の糸を用いて織ること。

■植物繊維の種類
@綿
・綿は,人類が古くから栽培してきた植物。
・綿はアオイ科に属する植物で,種子の表面に発生する綿毛を繊維として利用する。
・綿毛は,ほぼ純粋なセルロースである。
A麻
・亜麻(リネン)と苧麻(ラミー)の2種類があり,いずれも茎を乾燥して繊維にする。
・麻の主成分は,綿と同様にセルロースである。

■セルロース
・セルロースの分子は,β-グルコースが多数つながって,直線状にのびた形をしている。
・加熱により燃えやすく,紙を燃やしたときと同じにおいがして,灰色のやわらかい灰を残す。
・分子中に親水性の-OH基をたくさんもつので,繊維にしたときに吸湿性に優れ,染色性がよい。

■動物性繊維の種類
@絹
・カイコガがまゆをつくるときに吐き出す糸からつくられる。
・まゆの糸は非常に細く,長さは1000〜1500mほどになる。
・糸の成分は,フィブロイン,およびセリシンという2種類のタンパク質である。
A羊毛
・羊毛は,長さ数cmの短い繊維で,ケラチンとよばれるタンパク質からできている。
・タンパク質の分子中には,親水性の-OH基,-NH2基があるので,絹も羊毛も吸湿性に優れた繊維になる。
☆羊毛の吸湿性は繊維の中で最も大きい。

■化学繊維の種類
・再生繊維,半合成繊維,合成繊維,無機繊維がある。

■再生繊維
・天然繊維を一度溶媒に溶かしたのち,凝固液中に引き出して繊維として再生したもの。
・セルロースから得られる再生繊維をレーヨンという。
・溶解の方法によって,ビスコースレーヨン,銅アンモニアレーヨンなどの種類がある。

■ビスコースレーヨン
・パルプを水酸化ナトリウム水溶液で処理したのち,二硫化炭素を反応させると,粘性の高い溶液(ビスコース)ができる。これを,硫酸を主成分とする凝固液中に引き出して繊維にしたものをビスコースレーヨンという。
・レーヨンは,綿と同じセルロースからできているので,吸湿性に優れ,染色性もよい。
・セロハンは,ビスコースをシート状に引き出したもので,包装などによく使われる。

■半合成繊維
・天然繊維を化学的に処理してから紡糸したものを半合成繊維とよぶ。
・半合成繊維にはアセテートがある。

■アセテート
・セルロースに,酢酸と無水酢酸,少量の濃硫酸の混合溶液を作用させると,ヒドロキシ基がエステル化されてトリアセチルセルロースになる。そのエステル結合を部分的に加水分解して繊維にしたものをアセテートという。

■合成繊維
・石油などを原料として重合反応によって高分子化合物を合成し,これを小さな穴から引き出して繊維にしたものを合成繊維とよぶ。

■縮合重合による合成繊維
・縮合重合によるおもな合成繊維には,ポリアミド系合成繊維,ポリエステル系合成繊維などがある。

@ポリアミド系合成繊維
・ポリアミド系合成繊維は,アミンとカルボン酸から得られ,単量体がアミド結合をくり返して高分子化合物となっている。ナイロン66,ナイロン6などがある。

■ナイロン66
・1937年にアメリカのカロザースによってはじめて合成された。絹の長所を再現することを目的に開発された繊維で,肌ざわりや光沢が絹に似ている。

■ナイロン6
・環状のアミドであるカプロラクタムに少量の水を加え,加熱してつくられる。環状構造が切れて,開環重合がおこる。

Aポリエステル系合成繊維
・ポリエステル系合成繊維は,2価アルコールとジカルボン酸との縮合重合によってつくられる繊維であり,おもなものにポリエチレンテレフタラート(PET)がある。
・ポリエステル繊維からつくられる生地は,丈夫でしわになりにくいので,ワイシャツなどの衣料品に広く用いられている。

■ポリエチレンテレフタラート(PET)
・縮合重合によりつくられる。
・回収,溶融,紡糸することで繊維として再生することができる素材として,フリース衣料やペットボトルなどに使われ,リサイクルされている。

■付加重合による合成繊維
・付加重合によるおもな合成繊維には,ポリビニルアルコール系合成繊維(ビニロン),ポリアクリルニトリル系合成繊維などがある。

@ビニロン
・付加重合,加水分解によって,ポリビニルアルコール(PVA)が得られる。PVAは,ヒドロキシ基を多くもち,水に溶ける。これを細孔から硫酸ナトリウム水溶液中に押し出すと,塩析がおこって繊維状に固まる。さらにホルムアルデヒド水溶液で処理すると,部分的にヒドロキシ基が残った繊維が得られる。これがビニロンである。
・ビニロンは初の国産合成繊維(1939年)で,適度な吸湿性があり,摩擦や薬品に対して強いので,衣料・テントなどに用いられている。

Aポリアクリロニトリル
・アクリロニトリルを付加重合させると,ポリアクリロニトリルが得られる。
・ポリアクリロニトリルを主成分とした繊維は,アクリル繊維とよばれている。アクリル繊維は,毛織物の風合いがあるので,セーター,毛布,カーペットなどに用いられるほか,羊毛や綿などと混紡して,衣料品に用いられている。

染料と染色
                           
■天然染料
・天然染料には植物染料と動物染料がある。
・天然染料は採取量が少なく,染色方法が複雑なので,現在ではわずかしか用いられていない。

■植物染料
・アリザリンはアカネの根から採れる赤色の染料。
・カルタミンはベニバナから採れる赤色の染料。
・インジゴは藍(アイ)から採れる青色の染料。
・ニンジンの根やホウレンソウの葉から採れるカロテンも染料になる(黄色〜赤色)。

■動物染料
・コチニール(カルミン酸)はコチニール虫から採れる赤色の染料。
・古代紫(ブロモインジゴ)は(貝紫ともいう),アクキガイ料の貝から採れる赤紫色の染料。

■合成染料
・インジゴやアリザリンなどの天然染料も最近は合成されている。
・最も広く用いられている合成染料は「アゾ染料]で,アゾ基を持つ。

■染着
・染料が繊維に結合することを「染着」という。         

■染料の種類
@直接染料
・繊維に直接染着する染料を「直接染料」という。
・綿などのセルロースのヒドロキシ基に水素結合する。
☆水素結合は共有結合よりも弱い結合なので,「色落ち]しやすい染料。
A酸性染料・塩基性染料
・分子内に酸性基や塩基性基を持った染料を「酸性染料」,「塩基性染料」という。
・絹や羊毛のタンパク質分子中の塩基性基や酸性基イオン結合することにより染着する。
☆鮮明な色相を持つものが多いが,色あせしやすいものが多くある。
B建染め(たてぞめ)染料
・分子内にカルボニル基を持ち,水に不溶だが,アルカリで還元し,水溶性にして染着させる染料を「建染め染料」という。
☆インジゴ(藍から抹れる染料で,藍染めに用いる)が代表的。
C媒染染料
・媒染剤を繊維に吸着させて,これに染着させる染料を「媒染染料」という。
☆金属イオンが金属錯体を形成し,色落ちしにくい染料。
D分散染料
・水に不溶性で,界面活性剤を用いて水に微粒子状に分散させ,繊維分子の疎水性の部分に染着させる染料を「分散染料」という。
                              
■染色の方法
@浸染(しんぜん)
・一様に染める方法を「浸染」という。
A捺染(なつせん)
・プリントのように染める方法を「捺染]という。さまざまな色で染め分けるのに適している。
B抜染(ばっせん)
・化学薬品で染まらない部分を作る方法を「抜染」という。
C防染(ぼうせん)
・ろうやのりを塗ったり,糸でくくったりして染まらない部分を作る方法を「防染」という。

洗剤

■セッケンの構造と製造
・セッケンは高級脂肪酸のナトリウム塩(またはカリウム塩)で,カルボキシル基のイオンからなる「親水基」と,炭化水素部分からなる「疎水基」からなっている。

■会合コロイド
・セッケンは,セッケン水では疎水基を内側に親水基を外側に向けた球状の集合体として存在している。これを「会合コロイド]または「ミセルコロイド」という。
☆セッケン水が濁っているのはコロイドが存在しているから。

■乳化作用
・油の粒子が存在すると,セッケンは疎水基を油の方に向けて結合し,油を中心としたコロイド粒子を形成する。この作用を「洗浄作用」または「乳化作用」という。

■セッケンの性質
・セッケンは弱塩基性。高級脂肪酸はカルボン酸から弱酸性,水酸化ナトリウムや水酸化カリウムは強塩基性なので。
☆衣類をセッケンで洗うと繊維を傷めたりすることがある。

■硬水
・カルシウムイオンやマグネシウムイオンを多く含む水。

■セッケンと硬水
・セッケンは硬水中では使用できない。(高級脂肪酸のカルシウム塩やマグネシウム塩は水に溶けにくいので,硬水水中では,セッケンは洗浄作用を示さない。)

■合成洗剤
・代表的なものはABS(アルキルベンゼンスルホン酸塩)。セッケンと同様に親水基と疎水基を持つ。・スルホン酸は強酸なので,ABS洗剤は中性を示す。
・合成洗剤は,カルシウムイオンやマグネシウムイオンと沈殿を形成しないため,硬水中でも使用することができる。
☆合成洗剤は中性で硬水中でも使用可能!

■界面活性剤
・セッケンや合成洗剤は,水の表面張力を減少させるため,「界面活性剤]とも呼ばれる。
☆例;毛糸を水面上に置いても水をはじいて沈まないが,洗剤を溶かすと,毛糸に水がしみこんできて,毛糸は沈んでしまう。

■洗剤の成分
・洗剤には洗浄補助剤(炭酸ナトリウム,酵素,ゼオライト,ポリアクリル酸ナトリウム)や添加剤(蛍光剤)が加えられている。

■洗浄補助剤
@炭酸ナトリウム;塩基性を示すので,遊離した脂肪酸をセッケンに変化させる。
A酵素;タンパク質や油脂を分解する。
Bゼオライト(アルミノケイ酸塩);カルシウムイオンやマグネシウムイオンを吸収してナトリウムイオンを放出するため,水を軟化させる。
Cポリアクリル酸ナトリウム;一度落ちた汚れが再び衣類に付着するのを防ぐ。

■添加剤
・衣類を白く見えるようにするため「蛍光剤」が加えられている。